ユキ


 朝、マーの様子を見ながらびくびくしていると、
「ママ」(うわ、来るか来るか〜)「マーチャン、行カナイ」(あ〜、やっぱり〜・・・)
気持ちがわかるだけにつらいけれど、ここはどうにかして乗り切らないと。
横断バッグの中のいろいろな道具を見せて、
「マーちゃん、今日は、こんなにいっぱいお荷物あるんだよね。持っていくの大変だよね。持っていけるかなあ、だめかなあ。」
「マーチャン、力持ちダヨ、持っていけるヨ」(しめた、しめた)
「でも、マーチャン、ヒトリじゃ行ケナイ・・・」(が〜ん)
「でもね、がんばらなきゃ。お友だちもみんながんばって一人で来るんだよ」
「じゃあ、コレもって行ってもイイ?」
マーがもってきたのは、小さな小さな「ユキ」だった。雪じゃないのよ、こやぎの「ユキ」。そう、昔あの「アルプスの少女ハイジ」というアニメに出てきた、ハイジがかわいがっていた白い小やぎの「ユキ」ちゃんなのである。出産祝いのお返しにいただいたハンドタオルにおまけのようについてきたマスコットで、小さい上に手触りがいいのでマーのお気に入りになっていた。何度か洗っても、かわかぬうちにまたすぐ握ってしまうほどなのだ。(こんな小さなものが、今この子の心のよりどころになれるんだ)と思うと不思議というか、親の無力を情けなく感じるというか・・・
「いいよ、そうしよう。ユキちゃん、マーちゃんの幼稚園についていきたいって。かばんにつるさ げてあげるね。」
ユキを、細いゴムにくくりつけてかばんに下げてあげる。ゴムがビヨ〜ンとのびてユキが自分の手元に来ると何ともいえない笑顔。マーちゃん、がんばれ!
 
 8時、通園バスにさらわれるようにしてマーは行ってしまった。