噛まれた?!

 2時半、バスを待っていると、来たよ来たよ。最初に先生が降りてきて、ここまではいつもと一緒なんだけど、次が違った。
 「お母さん、実はチーちゃんなんですけど、今日お友達にほっぺたを噛まれてしまって・・・」
 「!!!!?????えっ、ほっぺたを?」
耳を疑いましたよ。でもうるうるした目で、赤いアンパンマンの長靴をはいて降りてきたチーの両頬には、大きなヒエピタが!手短かな先生の話も耳に入らず駆け寄る。そうっとはがして見ると、左右の頬に歯型がくっきり、ひっかかれた傷まで!!痛々しい!!ああ、自分の顔がひきつっていくのがわかる・・・。「後でやった子の親から連絡がくると思いますが」という話だったけれど今はそれどころじゃない。手でも足でもなく、ほっぺたを噛むとは何ということ!!許せない。
 冷静になろう、冷静になろう、ワタシは先生だったんだ、冷静になろう、そう言い聞かせても女の子の顔を、それも右も左も噛むなんて、なんてこと!と怒りが込み上げる。マーもこの事態にはびっくりしたのか、「マーちゃん、見ていなかったの、見ていなかったの」と自分が見ていればこんなことにならなかった、と責任を感じているようで泣き顔になっている。
 子供のしたことだから仕方がない、それもわかっている。でも、このやりきれない思いをどこにぶつけよう。我が子だって加害者になることもあるかもしれない、うん、それもわかっている、でも、でも・・・。
 もしここで、すぐにやった子の親が来ていたら、喧嘩になっていたかもしれないな。どう話そうと決まっていたわけでもないのに、今か今かと相手の親が来るのを待ち構えていたわたし。今思えば幸運なことに、相手のお母さんが見えたのは2時間経った後だった。その間、興奮はだんだんとおさまり、歯型の跡も見なれたせいか、冷静にいろいろなことが考えられるようになった。
 そして、遠方からみえたお母さんと本人が本当に困り、心から詫びているのがわかった時、うまく言えなかったけれど、「仕方ないな、お互いサマだ」と思えるようになっていた。先生に叱られ、母親に叱られ、夜には父親に叱られるんだろう。「ごめんね」と泣きながらいうこの姿を信じてあげたいな、と。
 夜、2人に「ねえ、明日園へいっても、○ちゃんは悪い子、みたいなことを言っちゃだめだよ、ごめんねしたし、もうい〜っぱい叱られたんだから。」というと、マーが、「○ちゃん、いつもはイイ子ナンダヨ」と言っていた。そして、チーにも。
「ねえ、いやなことされたら・・・逃げなさい。右も左も噛まれちゃうお人よしでどうするの!」
(こう書いていて、イエスキリストを思い出したよ。右の頬をぶたれたら、左の頬も出しなさいってね。右の頬を噛まれたら、左の頬も噛まれなさい、ってか?チーチャン、志が高すぎるぜ)