運動会の思い出 (2)

(昨日からのつづき) 
「先生、Tがかわいそうだ」「T君、かわいそう」男子も女子も、だれもが自分のことのように顔面突撃したTのことを気遣った。その日の夕方、わたしはいっぱいのアイスクリームを持って、Tの家を訪問し、かわいそうなことをしてしまった、と家の人に頭を下げた。
それから本番まであまり日はなかった。痛々しいTの顔をみるたびに、なぜか皆の気持ちは一つになっていき惜しみなく練習に明け暮れた。そして周りの子供たちの願いで、Tはアンカーの馬にまわることになり、1番手はこれまた足の速いSがひきうけてくれることになった。
 そしていよいよ迎えた本番当日。スタートラインに1番手の馬が並んだ。我がクラスの馬の上には聳え立つ緑の旗「武田」!そう、「天下無敵の騎馬隊」になぞらえて「武田」の名前にしたのだ。そして御大のクラスは黄色い「織田」、眼中にはこの緑と黄色の2つしかなかった。
 スタート!!すべてこのスタートにかかっていた。それが他の先生からのアドバイスだった。先頭でぶっちぎりに引き離すこと、そうすれば相手は動揺し乱れることになるだろう、そう読んだのだ。馬は3人とも早足の男の子ワンツースリーで揃えた。どの子も7秒後半で走る子だった。そして読みは的中した。最初のコーナーでもみあった後、スッと「武田」が踊り出たのだ!涌きあがる歓声、「そのまま行け、そのまま行け」と念じる自分。それからは武田のトップ独走態勢にはいった。決して差が大きかったわけではないが、確実に確実に旗が次の馬へと渡っていった。この間、御大率いる織田は何度か馬が崩れたし、「徳川」「豊臣」もそうだった。「落ち着いて、落ち着いて〜」と叫ぶ自分が最高に興奮しているとわかっていた、けれどやめられなかった。いよいよアンカーのTたちの馬に旗が渡った。差は大きく広がっていた。白いテープ側から見える後には、次の馬の姿はない。ゴールに飛びこむ4人の顔がほころんで、何ともいえない笑顔になっている。それを見守るクラスの子供たちも極上の笑顔だ。やったね!なんていい気持ち!
 こうしてわたしたちは騎馬リレーを制覇した。結局子供たちの頑張りに「御大」だ「下剋上」だなどという私情?はかき消され、わたしは一緒になって勝利の歓喜に酔いしれた。これがきっかけで、その後の選抜リレー、総合とすべてで優勝し、運動会の終わりに優勝の賞状4枚(完全制覇)を手にした6年4組だった。
 その子たちも今では24才になっている。遠い昔の、忘れられない運動会の話でした。
(次回に続く)