ピアノ物語

 14日、心待ちにしていたデジタルピアノがやっと届きました。置くところもいろいろと考えたけれどこの狭さでは考えるだけ無駄。で、結局縁側になりました。ぽかぽかの小春日和、暖かい日差しの中「初弾き」です。この小さな家からピアノの音が聞こえてくるなんて、お隣さんもびっくりだろうなあ、なんて思いながらいい気持ちになってうっとり。買ってよかった、と実感です。
 午後、お店のご主人がわざわざ集金に来てくださいました。懐かしい実家のピアノを見ていただきたくて、支払いを済ませたあと実家へと案内しました。母も懐かしのご対面です。「ああ、これです、この形、丸みを帯びたデザインでね、そのころのグッドデザイン賞をもらったんですよ」と黒く光ったピアノ君を撫でるご主人。ピアノの中に入った古びた保証書を取り出してみると、買ったのは本当に35年前の日付でした。「今でも覚えていますよ、そのころの僕の給料が3万9千円、このピアノが40万から50万だった。本当にいいものを買っていただいたんです。」ええっ、そんなにしたんだ!とわたしはびっくり。象牙は今では採れなくなっているため、特別な演奏会用のピアノにだけ、ストックしてある象牙を使うことがあるんだとか。このピアノは本当に貴重なんだ、我が家の家宝にしなくては、と決意を新たにしたわけであります。
 それで、しばらく調律をしていないので、頼むことにしました。古ぼけた調律記録を見ると、なんと20年もやっていなかった!これはいくらなんでもひどい。でも、音がずれているだろうことに全然気づかないわたしの耳もやっぱりひどい・・・。4、5日して調律師さんがやってきました。ピアノをあけてみると、なんとハンマーにつけられているフェルトの部品がどれもほとんど虫に食われ、ボロボロになってやせ細ってしまっている、というのです。この場ではどうにもならないので、鍵盤ごと本社へ持ちかえり、新しいフェルトをつけなくてはならないということでした。20年という月日はピアノの機能を相当侵してしまっていたのでした。調律師さんがおっしゃるには、調律代というのは1年やらないと1000円が上乗せになっていくそうです。わが愛しのピアノ君は鍵盤を抜かれた無残な痛々しい姿に。
 それから1週間たった今日、調律師さんが新しいフェルトをつけた鍵盤を持ってきて、ピアノにとりつけてくれました。「いいものはちゃんと手入れをしなくては意味がありませんよ、これからは1年に1回は調律しましょうね」「はい、よろしくお願いいたします。」痛いお言葉と料金を残して調律師さんは帰られました。約10万円かかって生まれ変わったピアノ。さっそく「ソナタ悲愴」で試し弾き。ああ、全然違うよ〜、だってフォルテシモで部屋のガラスがビビビッと反響するようになっちゃったもの、これが本当の響きなんだ〜!やっぱりでデジタルとは違うよな、ますますハマリそう・・・。ということで、我が家のデジタルピアノは音取りの練習に使い、仕上げはやっぱり実家のピアノでやろう、と思ったのでした。
 ところで、オチビたちは?というと、我が家にデジタルピアノがきたことで鍵盤に触れる機会がふえ、とてもよい環境となりました。教本の曲をやろうとせず、ウソウタを奏でてばかりなのが気になりますが良しとしておきましょう。母はというと、イイ気持ちで半ば酔いしれながらピアノを弾いているのに、走り寄ってきたオチビに「ねえ、ママ?ぶちっ!」と電源ボタンを切られることが一番いらつき、ストレスを感じる今日この頃なのであります。