2006年 戌年

 今年は戌年、新春のバラエティ番組では、犬君たちが結構出演していたけれど、細木数子さんは「ばかばかしい、そういう意味じゃないのよ」と怒っていたっけ。でも、子供たちと前に読んだ「十二支のはじまり」という絵本は、元旦に神様のところへ行った順にその年の動物のリーダーが決まる、という話で、犬と猿が喧嘩しながら道を歩くので、間に鶏が入って喧嘩をとめながら神様のところへ行ったんだよ。それぞれの動物をあてはめて考えるのが自然というものじゃないの。
 ということで、犬の話になります。我が家に犬はいませんが、実家にはもう16才になる「リキ」という老犬がいます。柴の雑種です。老犬ですが、まだ足腰もしっかりしているし、毛並みもつやもよく、見た限りではそんな年寄りとはわかりません。だからみんなびっくりします。
 「リキ」は3代目の犬です。1代目も2代目も「リキ」でした。2代目リキはとても可愛がられた犬でしたが、5年目、散歩のとき、何か悪いものを拾い食いしたのか、ある日突然体調が悪くなり、腰が立たなくなりました。それでも、おしっこを垂れ流すのがいやだったのか、犬としてのプライドがあったのか、尿意をもよおすと鳴くので、私の母が抱きかかえて外に連れて行き、おしっこをさせました。中型犬でしたから体重も軽くはなかったのですが、母はずうっとリキに付き合い、おしっこをさせました。そんなことが1週間続いた後、病院で手当てをしている最中にリキは天国に召されました。母の気落ちはひどいもので、くる日もくる日も泣き明かしました。思いにふけっては泣き、命あるものを見ては泣く、といった感じで、このままどうにかなってしまうんじゃないかと家族は心配しました。そこで、リキが死んで2ヶ月もしないうちに、今の3代目「リキ」をもらってきて、母にあてがったのです。母は「もう、また犬なんてもらってきて!」と怒りましたが、子犬の世話に、泣く暇もなくなりました。こうして16年がたったのです。
 この間、妹は結婚して家を出、赤ちゃんの姪をつれて実家に来るようになりました。私も結婚し、子供がいない頃は、主人といっしょにリキの散歩を楽しむこともありました。そしてチーとマーが生まれ、「ワンワン」という言葉を、リキに触れたり舐められたりしながらカタコトで話すようになりました。リキは、16年間、家族の変わっていく様を見つづけてきた犬なのです。
 でも、16年は長い。見た目は若く見えても、老化の波はリキに襲ってきていました。昨年春ごろから、おしっこが我慢できなくなりました。散歩の時間まで待てなくなってしまったのです。そして最近では、散歩のときでもポタポタとおしっこをもらしながら歩いていくんです。さらに、夜昼かまわずに「クウ〜ン、クウ〜ン」と悲しく鳴くようになりました。真夜中にもです。母は近所迷惑を気にして、夜中に散歩をしたり傍にいたりしたのですが、母自身も寄る年波には勝てず、疲れてしまっています。近くの動物病院で時々診てもらっているのですが、やはり老化現象で、どうやら人間でいう「まだらぼけ」のようなものが始まっているとか。高い薬も飲ませているのですが、効き目は今一つのようです。
 老いていく生き物を見るのはつらいものです。家族同様に暮らしているものであればなおさらです。そこに何かを重ね合わせてしまうのも現実です。いつか別れがきてしまう。その時どうするんだろう。老犬リキにはそれが確実に迫っていて、もしかしたら、チーとマーにとって初めての大きな「死」「別れ」の体験になるのかも知れません。そんな日がもっともっと先送りになってくれれば、と思うのですが。
 戌年、もしかして最後の1年になってしまうかもしれない、老犬リキとの残り少ない日々。そこから生きていること、死ぬということ、の真実を精一杯感じてほしいと願う母でした。