「月光」

 肩こり?筋肉痛?がひどいのです。なぜって?時間があるとピアノばかり弾いているからだろうな、きっと。「悲愴」が仕上がったので1月半ばから「月光」に入りました。これが思っていた以上にスゴイ・・・。1、2楽章は楽なんだけれど、3楽章がね、ほんと筋肉痛起こすほど大変なの。暮れに読んだ「四日間の奇跡」(浅倉卓弥)は、主人公が指の先を失ってしまった元ピアニストなんだけれど、こう言っていた。「…もし一曲だけ、もう一度完璧に何かを弾けるとしたら。そんなことを考えてみたことがある。僕の答えは『月光』だった。説明するまでもないが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタである。全部でなくていい。第三楽章だけでかまわない。譜面を見ていただければわかるけれど、前の二つの楽章に比べても第三楽章は飛躍的に音数が多い。一段に入る小節の数が少ないため、頁数も増えている。時間にしておよそ七分だが、その間演奏者の指は忙しく鍵盤を叩き続ける。しかも曲想の指示は、プレスト・アジタートである。速く、せきこんで、という意味だ。実際弾いているとほとんど息つく暇はなかった。(略)押し流されるように先へ先へと進んでいくだけだ。そして、全体に貫かれているのは、止むことのない雷雨のような連打である。それはただ、凄まじい。(略)七分という時間、ただ世界には鍵盤が降らす激しい雨しかない。」ね、わかるでしょ。こんなにすごい曲だもの、私がうまく弾けるわけないのです。手が小さいことが本当に恨めしい。技術的にはもう限界なんだろうけど、それでも弾いてみたくなる、変な誘惑があるのです、この3楽章には。
 話は変わって、ベートーヴェンを弾くようになってCDを買ったのだけれど、勉強不足の私はホロヴィッツだったらなんでも上手なんだろう、と思ってパパに「ホロヴィッツピアノソナタのCD買ってきて〜」と頼み、彼を師匠とあがめて真似しようとしていたのだけれど、真似できるわけありませんでした。で、「月光」に入ってから他のピアニストの演奏も聞いてみようと思い、久しぶりに図書館の視聴覚コーナーへ行ったわけです。お店で売られている「ピアノソナタ」のCDに対して図書館のCDはとても少なく、古そうなものだったけれど、とりあえず「ゼルキン」と「ギレリス」を借りてきました。聴いてみたとたん、「うっ、ち、ちがう」と感動。うまく言えないのですが、ホロヴィッツを加えると三者三様の「ピアノソナタ」なのでした。そしてわたしが一番共感できたのが「ゼルキン」の演奏でした…。それから少し調べたのですがね、「ケンプ」や「バックハウス」のピアノソナタも素晴らしいそうです。残念ながら図書館にはなかったから、自腹を切ろうかな、と考えています。
 「月光」つづきで、笑える話を。オチビたちがよく見るアニメの「おじゃる丸」は、月光町に住んでいるんだよね。図書館で借りたおじゃるのビデオの中に「月光町」の話がでてきて、楽しそうに見ていたチーでした。それから2、3日して夕方やっている「タッチ」のアニメをみたチーが、「ママ、どうしてタツヤくんは月光町なの?」と意味不明のことを尋ねてくる。「はあ?」何をいっているのかわからない母。「タツヤくんも月光町に住んでいるの?」「はあ?なんで?」ますますわからなくなる母の耳に入ってきたテレビの声、「すごい!ノーヒットノーランまであと3人、上杉たつや、絶好調です」もう、大笑いでした。ちょうど、この日の話はたつやがノーヒットノーランを達成する話で、何度も「上杉、絶好調」という声が聞こえてきていたんですね。わかりやすく教えてやると、やっと「なるほど」と納得したような顔でにこっと笑ったチーでした。